画像技術とリピドミクス分析を統合したMSC(間葉系幹細胞)の機能評価指標の調査

生物学の基礎

タイトル (Title):
Investigation of MSC Potency Metrics via Integration of Imaging Modalities with Lipidomic Characterization
メソッドの統合によるMSCポテンシーメトリクスの調査

ジャーナル名 & 出版年 (Journal Name & Publication Year):
Cell Reports, 2024年

最初と最後の著者 (First and Last Authors):
Priyanka Priyadarshani, Luke J. Mortensen

最初の所属機関 (First Affiliation):
School of Chemical, Materials, and Biomedical Engineering, University of Georgia, Athens, GA, USA

概要 (Abstract):
本研究では、MSCの単一細胞レベルでの形態学的およびリピドミクスプロファイルを分析し、これらの特徴が免疫刺激によるMSCの機能的なサブポピュレーションを区別できることを明らかにしました。DPC顕微鏡およびMALDI-MSI技術を使用して、形態変化と特定のリピッドクラスの活性化の関連性を探索し、MSCの製造プロセスの最適化に寄与する可能性があることが示されました。

背景 (Background):
MSCは免疫抑制効果を有するため、再生医療において有望ですが、異なるドナーや細胞の増殖段階によりその効果は異なります。本研究では、MSCの形態とリピドミクスプロファイルを統合的に評価することで、単一細胞レベルでの機能的異質性を理解し、臨床応用の改善を目指しました。

方法 (Methods):
ラベルフリーの差動位相コントラスト(DPC)顕微鏡とMALDI-MSIを用いて、MSCの形態とリピドミクスプロファイルを同時に取得しました。IFN-γで刺激されたMSCと未処理のコントロールとの間で、形態およびリピドミクスの変化を比較しました。

結果 (Results):
IFN-γで刺激されたMSCでは、特定の形態的特徴(例: コンパクトさ、周囲長、主軸長など)とリピッド(特にPC、LysoPC、TAGなど)の間に強い相関が見られました。これらの特徴は、MSCの機能的サブポピュレーションを識別する指標となり得ます。

考察 (Discussion):
本研究は、MSCの形態とリピドミクスが機能的サブポピュレーションの識別に利用できる可能性を示しました。これにより、再生医療におけるMSCの製造プロセスの改善が期待されます。

以前の研究と比べた新規性 (Novelty Compared to Previous Studies):
本研究は、単一細胞レベルでの形態とリピドミクスの統合解析を行い、これらがMSCの機能的異質性を解明するための新たな手法であることを示しました。

限界 (Limitations):
シングルセルリピドミクスの信号が低いため、検出可能なリピッドの数が制限されている点が本研究の限界です。また、大規模データセットが必要であることから、今後の研究が求められます。

応用の可能性 (Potential Applications):
この手法は、MSCの機能的サブポピュレーションの識別や製造プロセスの最適化に応用できる可能性があります。


補足情報 (Supplementary Information):
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Q&A:

Q: どのようにして、シングルセルの脂質を解析した?
A: シングルセルの脂質解析は、以下の方法で行われました。

  1. MALDI-MSI (Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry Imaging):
    MALDI-MSI技術を用いて、MSCの単一細胞レベルでの脂質プロファイルを取得しました。この技術では、インジウムスズ酸化物(ITO)コーティングスライド上にMSCを播種し、IFN-γで刺激したグループと未処理のコントロールグループで比較しました。MALDI-MSIでは、特定のm/z値に対応する脂質ピークをスペクトルデータから抽出し、それらを画像化しました。
  2. コアジストレーション (Co-registration):
    DPC顕微鏡で得られた形態画像とMALDI-MSIで得られた脂質画像を統合し、細胞ごとの形態と脂質プロファイルを関連付けるためのコアジストレーションが行われました。この過程で、形態的特徴と脂質ピークのマッチングが行われました。
  3. 統計解析:
    得られた脂質プロファイルに対して、差次的に発現している脂質を特定するために、主成分分析(PCA)やロジスティック回帰分析が行われました。また、スペクトルの正確な質量同定のために、高分解能フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)および超高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(UHPLC-MS/MS)も使用されました。

このアプローチにより、単一細胞レベルでのIFN-γ刺激によるMSCの脂質プロファイルの変化が明らかにされました。


Q: MALDI-MSI とは?
A: MALDI-MSI (Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry Imaging) とは、質量分析計を用いて生体サンプルの空間分布を可視化する技術です。具体的には、以下のような手順で行われます。

  1. サンプル準備:
    サンプル(通常は薄く切片化された組織や細胞)は、特殊な基板(例: インジウムスズ酸化物コーティングスライド)に設置されます。次に、マトリックスと呼ばれる化合物がサンプル表面に均一にコーティングされます。このマトリックスは、レーザー光のエネルギーを吸収しやすくする役割を果たします。
  2. レーザー照射:
    サンプル上のマトリックスがレーザーで照射され、そのエネルギーによってサンプルの表面からイオンが放出されます。このプロセスを「脱離(desorption)」と呼びます。
  3. イオン化:
    放出された分子はイオン化され、質量分析計によって検出可能な状態になります。これを「イオン化(ionization)」と呼びます。
  4. 質量分析:
    イオン化された分子は質量分析計に導かれ、質量対電荷比(m/z)に基づいて分離され、検出されます。これにより、サンプル中のさまざまな化合物の質量スペクトルが得られます。
  5. イメージング:
    MALDI-MSIでは、サンプル上の各位置で質量スペクトルを取得し、そのデータをもとに化合物の空間分布を画像化します。これにより、特定の分子種がサンプル内でどのように分布しているかを視覚的に確認することができます。

MALDI-MSIは、生体組織や細胞の構造や化学的性質を詳細に解析するために広く使用されており、特に脂質やタンパク質などの分子の空間的な分布を明らかにするのに適しています。


Q: 何種類の脂質が同定されましたか?
A: MALDI-MSI解析により、合計で54種類の特定の脂質ピークが同定されました。このうち、IF

N-γで刺激されたMSCと未処理のコントロール細胞との間で、20種類の脂質がIFN-γで刺激された細胞で有意に多く、6種類の脂質がコントロール細胞で有意に多く検出されました。その他の26種類の脂質は、両グループ間で有意な変化は見られませんでした。


Q: 54種類は少ない方ですか?
A: 54種類の脂質は、シングルセルレベルでのMALDI-MSI解析においては一般的に少なくありませんが、技術の進歩や解析条件によっては、さらに多くの脂質を同定することも可能です。

MALDI-MSIのシングルセル解析では、質量分析の信号強度が低いため、検出できる脂質の数が制限されることがあります。特にシングルセル解析では、サンプルから得られる物質量が非常に少ないため、より多くの脂質を同定するには高感度な測定が必要です。

そのため、54種類という数は、シングルセルでのMALDI-MSI解析では妥当な数と考えられますが、今後の技術進展や他の補完的な分析手法(例: 超高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (UHPLC-MS/MS))との組み合わせにより、さらに多くの脂質を同定できる可能性があります。


Q: なぜIFN-γで刺激したのですか?
A: IFN-γ(インターフェロンガンマ)で刺激した理由は、MSC(間葉系幹/間質細胞)の免疫応答性を調査するためです。具体的には、以下の理由があります。

  1. 免疫応答の促進:
    IFN-γは、免疫系で重要な役割を果たすサイトカインであり、MSCを含む多くの細胞に対して強力な刺激効果を持っています。IFN-γでMSCを刺激することで、MSCが免疫抑制性や免疫調節性の機能を発揮しやすくなり、その際の細胞の応答や変化を詳細に調べることができます。
  2. 機能的異質性の解明:
    MSCはドナーや培養条件に応じて異なる免疫応答を示すことがあります。IFN-γで刺激することで、MSCの免疫抑制機能に関連する脂質や形態の変化を観察し、異なるサブポピュレーション間での機能的な違いを明らかにすることができます。
  3. 臨床応用の改善:
    IFN-γによるMSCの「プライミング」(事前処理)は、臨床での治療効果を高めるための戦略として使用されています。刺激による細胞の応答を理解することで、MSCの品質管理や製造プロセスの最適化に役立てることができます。

このように、IFN-γでの刺激は、MSCの免疫応答性を評価し、再生医療や免疫療法におけるMSCの効果を高めるための研究において重要なステップとなります。


Q: 具体的にどのような脂質が増えていたのですか?
A: IFN-γで刺激されたMSCにおいて、以下の脂質が増加していることが確認されました。

  1. Ceramide-1-phosphate (C1P):
  • m/z 688.4: CerP 33:2;O6
  1. Phosphatidylcholine (PC):
  • m/z 758.6 [M+H]+/780.5 [M+Na]+: PC (34:2)
  • m/z 732.6: PC (32:1)
  • m/z 804.6: PC (36:4)
  • m/z 504.3: PC (16:0/18:1)
  1. Lysophosphatidylcholine (LysoPC):
  • m/z 546.3: LysoPC(18:0)
  1. Triglyceride (TAG):
  • m/z 789.6: TG 43:1;O2

これらの脂質は、IFN-γで刺激されたMSCにおいて、免疫機能や細胞膜の構造に関連する役割を果たしており、特に免疫応答性が高まるときに増加することが確認されています。これらの脂質の増加は、MSCの免疫抑制機能や細胞形態に影響を与えると考えられます。


Q: これらの脂質と免疫応答の関連性は?
A: IFN-γで刺激されたMSCで増加した脂質には、免疫応答に重要な役割を果たすものが含まれています。以下に、それぞれの脂質の免疫応答における関連性を説明します。

  1. Ceramide-1-phosphate (C1P):
  • 役割: C1Pはスフィンゴ脂質の代謝に関与し、抗アポトーシス(細胞死抑制)作用を持つとともに、細胞の移動や炎症応答の調節に重要な役割を果たします。免疫細胞の活性化や移動を促進し、炎症反応を調整することが知られています。
  1. Phosphatidylcholine (PC):
  • 役割: PCは細胞膜の主要な構成成分であり、リピッドラフトの形成を通じて、免疫調節性サイトカインの分泌や、受容体を介した免疫応答を開始するために重要です。PCの代謝産物は、免疫細胞のシグナル伝達や細胞の分化・増殖に関与しています。
  1. Lysophosphatidylcholine (LysoPC):
  • 役割: LysoPCは、細胞膜のリモデリングや細胞シグナル伝達に関与し、炎症応答や免疫細胞の機能に影響を与えます。LysoPCは遺伝子発現を調節し、細胞の増殖や分化を促進することが知られています。また、LysoPCは炎症性サイトカインの産生を誘導することがあります。
  1. Triglyceride (TAG):
  • 役割: TAGはエネルギー供給源として重要であり、その代謝産物である脂肪酸やグリセロールは、免疫細胞の分化や機能に必要です。TAGの代謝産物は、細胞膜のリン脂質の合成や、免疫細胞のシグナル伝達経路に関与します。

Q: これらの脂質がどのようにして、免疫細胞に影響を与えるのですか?脂質が取り込まれるの?受容体を刺激するの?
A: これらの脂質は、さまざまなメカニズムを通じて免疫細胞に影響を与えます。以下に、各脂質が免疫細胞に及ぼす影響の具体的なメカニズムを説明します。

  1. 脂質の放出と受容体刺激:
    MSCが分泌する脂質は、主にエクソソームやマイクロベシクルと呼ばれる小さな細胞外小胞を介して放出されます。これらの小胞には、脂質やタンパク質、RNAなどが含まれており、他の細胞と相互作用することができます。
  • エクソソームの放出: MSCは、エクソソームを放出し、その中に脂質が含まれます。エクソソームが免疫細胞に取り込まれることで、内部の脂質やその他の成分が細胞内に直接影響を与える可能性があります。
  • 受容体刺激: 特定の脂質(例えば、LysoPCやPC)は、免疫細胞表面に存在する受容体に結合してシグナル伝達を開始します。たとえば、LysoPCはGタンパク質共役受容体(GPCR)を介して

免疫細胞にシグナルを伝達し、細胞の遊走(chemotaxis)やサイトカインの分泌を誘導します。また、PCはリピッドラフト形成を促進し、受容体のクラスター化と活性化を助けます。

  1. 脂質の直接取り込み:
    MSCから放出された脂質は、免疫細胞によって直接取り込まれることもあります。この取り込みは、脂質が細胞膜の一部として組み込まれたり、エネルギー供給源として利用されたりする過程を含みます。
  • エンドサイトーシスによる取り込み: 免疫細胞は、MSCから放出された脂質をエンドサイトーシスによって取り込みます。取り込まれた脂質は細胞膜の再構成や、エネルギー代謝に使用され、細胞の活性化や機能変化に寄与します。
  • 膜統合とシグナル伝達: 脂質が免疫細胞の膜に組み込まれると、膜の物理的特性やシグナル伝達経路に影響を与えます。これにより、免疫細胞の感受性や反応性が変化し、特定の免疫応答が誘導されることがあります。
  1. 間接的なシグナル伝達の変化:
    脂質の影響は、免疫細胞の内外でのシグナル伝達の変化を通じて間接的に発揮されることもあります。
  • シグナル分子の生成: 脂質が代謝される過程で生成されるシグナル分子(例: ダイアシルグリセロール、プロスタグランジン)は、免疫細胞のシグナル伝達を調整し、細胞の機能を変化させます。
  • 炎症性サイトカインの誘導: 一部の脂質は、免疫細胞の内部でシグナル伝達カスケードを活性化し、炎症性サイトカインの産生を促進します。これにより、他の免疫細胞の活性化や動員が促進され、免疫応答全体が強化されます。

Q: 脂質がMSCから分泌されるという理解ですか?
A: いいえ、前述の説明はやや誤解を招く部分がありました。脂質がMSCからエクソソームや小胞として分泌される場合もありますが、今回の研究で言及された脂質は、主にMSC自身の細胞膜や内部の代謝物として機能するものです。

正確な理解:
この研究における脂質の役割は、主にMSC自身の機能や形態に関連しています。具体的には、以下のようなプロセスを通じてMSCが免疫応答に影響を与えると考えられます。

  1. MSCの細胞膜構成と機能の変化:
  • リピッドラフトの形成: MSCの細胞膜に存在する脂質(PCやLysoPCなど)は、リピッドラフトと呼ばれる膜内領域を形成し、これが免疫受容体の配置やクラスター化を促進します。この配置変化により、MSCが免疫細胞と接触した際に、免疫細胞の活性化や抑制が誘導されます。
  • 膜の流動性と構造の変化: MSCの膜脂質組成が変化することで、細胞膜の物理的特性(例: 流動性、柔軟性)が変わり、これがMSCの免疫調節機能に影響を与えます。
  1. MSCの分泌物質の調整:
  • サイトカインや成長因子の分泌: 脂質代謝がMSC内で調節されることで、MSCが分泌するサイトカインや成長因子の種類や量に影響を与えます。これらの分泌物が、免疫細胞に直接的または間接的に作用し、免疫応答を調整します。
  1. MSCと免疫細胞との直接相互作用:
  • 細胞接触を介したシグナル伝達: MSCと免疫細胞が直接接触する際に、MSCの膜脂質が免疫細胞に対するシグナル伝達を調節する役割を果たします。これにより、免疫細胞の活性化、分化、または抑制が引き起こされます。

まとめ:
今回の研究における脂質の役割は、MSCが自身の細胞膜や内部で脂質を利用して免疫機能に関連する変化を誘導し、それが最終的にMSCが免疫細胞に対して示す免疫調節機能に影響を与えるというものです。したがって、これらの脂質は主にMSC自身の機能に影響を与え、MSCが免疫細胞と相互作用する際に重要な役割を果たします。

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