細胞外小胞は、細胞から分泌される微小な袋状構造であり、複数のサブタイプが存在します。それらのサブタイプは、サイズ、生物学的性質、生成メカニズム、機能によって区別されています。以下に、細胞外小胞の主要な分類について説明します。
エクソソーム Exosomes
エクソソームは、約30〜150 nmの直径を持つ細胞外小胞で、細胞質内の多胞体から分泌されます。エクソソームは、タンパク質、脂質、核酸(mRNA、miRNA、lncRNAなど)を含んでおり、これらの生物学的分子を標的細胞に運搬することで、細胞間の情報伝達を促進します。エクソソームは、免疫応答、神経伝達、腫瘍微小環境の形成、細胞の老化やアポトーシスなど、多くの生物学的プロセスに関与しています。
エクトソーム Ectosomes
エクトソームは、細胞が環境に放出する小さな膜被覆の粒子です。これらの粒子は通常、細胞表面から「ブリーチング」または「ピンチング」(すなわち、細胞膜の一部が分離して新たな小さな粒子を形成するプロセス)により形成されます。エクトソームは元の細胞からさまざまな分子を運ぶことができ、その結果、情報を他の細胞に伝達することができます。
エクトソームは細胞間通信に関与していると広く認識されています。それらは、タンパク質、リポイド、RNA、DNAなどの生物学的に重要な物質を含んでいます。これらの成分はエクトソームがどのように形成され、どの細胞から放出されたかによって異なることがあります。これにより、エクトソームは特定の情報を特定の細胞に伝えるための「パッケージ」として機能することができます。
また、エクトソームは病状の診断や治療に役立つ可能性があります。例えば、ある種のがん細胞は特定のタンパク質を含むエクトソームを放出することが知られています。これらのエクトソームを検出することにより、医師はがんの存在や進行状況を特定することができるかもしれません。さらに、エクトソームは薬物を運ぶ「ベクトル」または「輸送手段」としての役割を果たす可能性があります。これは、特定の細胞に薬物を届ける新しい方法となるかもしれません。
エクソソームとのちがい?
エクソソームもエクトソームは細胞が放出する膜被覆の小さな粒子ですが、その形成の過程と役割には違いがあります。
エクソソームは細胞内のエンドソームという構造体が成熟し、細胞内部に小さな泡(イントラルミナルベシクル)を形成する過程を経て形成されます。これらのエンドソームが細胞膜に融合すると、これらの泡が細胞外に放出され、これがエクソソームです。エクソソームはしばしば、タンパク質、脂質、RNA、さらにはDNAなど、細胞間で情報を伝達するためのさまざまな物質を運ぶ役割を果たします。
一方、エクトソームは細胞表面から直接分離することにより形成されます。この過程は「ブリーチング」または「ピンチング」(すなわち、細胞膜の一部が分離して新たな小さな粒子を形成するプロセス)と呼ばれます。エクトソームもまた、情報伝達の役割を果たしますが、その内容物や細胞からの放出のメカニズムはエクソソームとは異なります。
Meldolesi J. Exosomes and Ectosomes in Intercellular Communication. Curr Biol. 2018 Apr 23;28(8):R435-R444. doi: 10.1016/j.cub.2018.01.059. PMID: 29689228.
エクソメア Exomere
エクソメアは、エクソソームやマイクロベシクルと比べてサイズが小さい細胞外粒子の一種です。この用語は、細胞外粒子の多様性と複雑さを理解しようとする最近の研究から生まれました。
エクソメアは直径約35ナノメートルで、エクソソーム(通常は直径40-100ナノメートル)やマイクロベシクル(数百ナノメートルの直径がある)と比べてかなり小さいです。
研究では、エクソメアが独自の一連の生物分子、つまり、タンパク質、脂質、核酸を運んでいることが示されています。エクソメアのユニークな組成は、他の種類の細胞外粒子とは区別し、それらが独自の生物学的機能を持つことを示唆しています。
Nation GK, Saffold CE, Pua HH. Secret messengers: Extracellular RNA communication in the immune system. Immunol Rev. 2021 Nov;304(1):62-76. doi: 10.1111/imr.13027. Epub 2021 Sep 20. PMID: 34542176; PMCID: PMC8756459.
マイクロベジクルス Microvesicles
マイクロベジクルス は、約100〜1000 nmの直径を持つ細胞外小胞で、細胞膜から直接出芽することによって生成されます。マイクロビーズは、脂質、タンパク質、核酸などの生物学的分子を含んでおり、エクソソームと同様に細胞間の情報伝達に関与しています。マイクロベジクルス は、免疫応答、凝固反応、腫瘍細胞の増殖・浸潤・転移など、多様な生物学的プロセスに関わっています。
アポトーシス小胞 Aptopoietic bodies
アポトーシス小胞は、アポトーシス(細胞の自己消滅)の過程で生成される、約500〜5000 nmの直径を持つ細胞外小胞です。アポトーシス小胞には、アポトーシスに関与するタンパク質や核酸が含まれており、アポトーシス細胞の残骸を隣接する細胞が貪食することを促進します。これにより、アポトーシス細胞の残骸の除去や炎症反応の抑制が効率的に行われることが可能となります。アポトーシス小胞は、組織の恒常性維持や免疫系の調節に重要な役割を果たしています。
オンコソーム
オンコソームは、がん細胞由来の大型の細胞外小胞で、直径が約1000〜10000 nm程度です。オンコソームは、がん細胞の増殖、侵襲、転移に関与するタンパク質、核酸、脂質などを含んでいます。これらの生物学的分子が、周囲の正常細胞や免疫細胞に影響を与え、がんの進行を促進することが示唆されています。
Exopher
エクソファーは細胞から外部空間へ放出される膜結合型の細胞外小胞(EV)の一種です。エクソファーはその大きさで注目されており、直径約4マイクロンと平均して大きく、ミトコンドリアやリソソームなどの完全なオルガネラを貨物として排出する能力を持っています。エクソファーは線虫のニューロンや筋肉、さらにはマウスの心筋細胞から放出されることが確認されています。エクソファーは最初にそれを生産した細胞にトンネル状のナノチューブに似た膜状のフィラメントによって接続されたままであることがあります。エクソファーは大きなオンコソームと類似性を共有していますが、それらは腫瘍に関連した異常な細胞ではなく生理的に正常な細胞から産生されるという点で異なります。
エクソファーの産生は細胞がホメオスタシスを維持するためのメカニズムと考えられています。エクソファーは、細胞内のタンパク質の凝集、活性酸素種(ROS)、熱、浸透圧の高い環境、飢餓、さらには宇宙飛行に対する反応として生産されます。エクソファーの産生は細胞外受容体のシグナリングに依存していることが見つかっています。具体的には、線虫におけるエクソファーの産生には、2つのMAPKパスウェイ、すなわち上皮成長因子(EGF)と線維芽細胞成長因子(FGF)のシグナリングが関与しています。さらに、心臓在住マクロファージによって発現される細胞外シグナリング受容体MERTKは、マウス由来の心臓組織におけるエクソファーの食作用によるクリアランスに必要です。
エクソファーは疾患と関連があるかもしれません。マウスの心臓において、マクロファージを除去するか、エクソファーを取り込む能力をブロックすると、炎症と心室の調節異常を引き起こします。さらに、エクソファーは、ヒトのハンチントンタンパク質を含む、ニューロンの外部に凝集タンパク質を運ぶ能力により、神経変性疾患における病的なタンパク質の拡散を促進する可能性があります。
Turek M, Banasiak K, Piechota M, Shanmugam N, Macias M, Śliwińska MA, Niklewicz M, Kowalski K, Nowak N, Chacinska A, Pokrzywa W. Muscle-derived exophers promote reproductive fitness. EMBO Rep. 2021 Aug 4;22(8):e52071. doi: 10.15252/embr.202052071. Epub 2021 Jul 20. PMID: 34288362; PMCID: PMC8339713.
その他の細胞外小胞
細胞外小胞は、サイズや生物学的性質に基づいてさまざまなサブタイプに分類されますが、研究が進むにつれて新たなサブタイプが発見される可能性があります。また、細胞外小胞は細胞タイプや状態によって異なる特性を示すことがあり、組織特異的な細胞外小胞や病態特異的な細胞外小胞が存在することが報告されています。
今後
最新版のMISEV2018では細胞外小胞の名称について,“エクソソーム”や“マイクロベシクル”という呼び名ではなく,200 nm以下のものを“small Extracellular Vesicles”(sEVs),200 nm以上のものを“medium/large EVs”(m/l EVs)というようにサイズで分類することが推奨されています。
また,細胞外小胞に多く発現しエクソソームマーカーとして知られている膜貫通タンパク質ファミリーのテトラスパニン(CD9, CD63, CD81)についても,細胞種や回収法,サイズにより発現量にばらつきがあるため,(CD63+/CD81+-EVs)といった表記をつけ加えることも推奨されています。
細胞外小胞の分類は、研究の進展に伴ってさらに詳細化されることが予想されます。細胞外小胞の標準的な分類や分離・精製方法が確立されることによって、研究結果の再現性や比較が容易になり、細胞外小胞の生物学的性質や機能に関する理解が深まることが期待されています。また、細胞外小胞を利用した診断・治療法の開発や、疾患の発症・進行機構の解明に貢献することが期待されています。
参考文献
- Raposo, G., & Stoorvogel, W. (2013). Extracellular vesicles: Exosomes, microvesicles, and friends. The Journal of Cell Biology, 200(4), 373-383. この文献では、細胞外小胞の分類や生物学的機能、および生体内での役割について総説されています。
- Tkach, M., & Théry, C. (2016). Communication by extracellular vesicles: Where we are and where we need to go. Cell, 164(6), 1226-1232. 細胞外小胞による細胞間コミュニケーションに焦点を当てたレビューで、細胞外小胞の研究の現状と今後の課題について解説されています。
- Colombo, M., Raposo, G., & Théry, C. (2014). Biogenesis, secretion, and intercellular interactions of exosomes and other extracellular vesicles. Annual review of cell and developmental biology, 30, 255-289. 細胞外小胞の生成、分泌、および細胞間相互作用に関する包括的なレビューで、エクソソームをはじめとする細胞外小胞の生物学的プロセスについて詳細に解説されています。
- Maas, S. L., Breakefield, X. O., & Weaver, A. M. (2017). Extracellular vesicles: Unique intercellular delivery vehicles. Trends in cell biology, 27(3), 172-188. 細胞外小胞が細胞間の情報伝達において独特な運搬手段を提供することに焦点を当てたレビューで、細胞外小胞の生成・運搬・取り込みに関するメカニズムについて説明されています。