今回ご紹介する論文はこちら。
Efficacy and safety of fitusiran prophylaxis in people with haemophilia A or haemophilia B with inhibitors (ATLAS-INH): a multicentre, open-label, randomised phase 3 trial
インヒビターを有する血友病Aまたは血友病B患者におけるfitusiran予防の有効性と安全性(ATLAS-INH):多施設共同オープンラベル無作為化第3相試験
簡単に説明すると。。
血友病は、主にX染色体に遺伝する血液凝固因子の欠乏により、出血しやすくなる遺伝性の疾患です。血友病Aと血友病Bが一般的で、血液凝固因子VIIIやIXの不足によって引き起こされます。
血液凝固因子を補うために投与される治療薬が、患者の体内で異物と認識されることがあります。その結果、免疫系が治療薬を攻撃する抗体(インヒビター)を生成し、治療効果が低下します。インヒビターができる原因は完全には解明されていないものの、遺伝的要因や環境要因、治療のタイミングや頻度などが関与しているとされています。
フィツシラン(Fitusiran)は、血友病AおよびBの治療に用いられる新しい薬物で、RNA干渉(RNAi)という技術を利用しています。RNA干渉は、二本鎖の小さなRNA分子(siRNA)が、標的となるメッセンジャーRNA(mRNA)に特異的に結合し、それによりmRNAが翻訳されるのを防ぎます。これにより、ターゲットとなる遺伝子にコードされたタンパク質の生成が抑制されます。
フィツシランは、抗凝固タンパク質であるアンチトロンビンの生成を抑制することで、患者の血液凝固能力を増強し、出血のリスクを減らすことを目的としています。従来の血友病治療法と異なり、フィツシランは血液凝固因子に直接作用しないため、インヒビターの影響を受けにくいとされています。
本稿では、阻害剤を用いた血友病AまたはB患者を対象としたフィツシラン予防の有効性と安全性を評価した第3相試験の結果を報告します。この研究では、フィツシランの予防は出血率の低下に効果的であり、耐容性も良好であることがわかりました。
この研究の背景
止血と呼ばれる出血を止めるプロセスには、凝固促進経路と抗凝固経路のバランスが必要であることが説明されています。血友病AとBは、凝固因子の欠乏によって引き起こされ、トロンビンの生成が不十分になったり、出血したりする可能性があります。血友病管理の標準治療は予防、つまり止血剤の定期的な投与ですが、頻繁な点滴や抑制性抗体の開発などの限界があります。
どうやって実験を行ったか?
この論文では、インヒビターを投与した血友病AまたはB患者を対象としたフィツシラン予防の有効性と安全性を評価するために、多施設無作為化オープンラベル第3相試験を実施しました。参加者は、月に1回80mgの皮下フィツシラン予防を受ける群と、必要に応じて薬剤のバイパス療法を9か月間継続する群のいずれかにランダムに割り付けられた。主要評価項目は、陰性二項モデルによって推定された治療意図集団における有効期間中の平均年間出血率でした。安全性は安全母集団の副次評価項目として評価されました。
薬剤のバイパス療法は、血友病患者においてインヒビターが存在する場合に使用される治療方法です。通常の血友病治療では、欠けている血液凝固因子を補充することで凝固機能を回復させますが、インヒビターが存在すると効果が低下します。バイパス療法では、欠けている凝固因子の代わりに、凝固カスケードを促進させる別の物質(バイパス剤)を使用します。これにより、インヒビターによる影響を避けつつ、血液の凝固能力を改善し、出血のコントロールが可能となります。代表的なバイパス剤には、活性化型プロトロンビン複合体濃縮物(aPCC)やリカルボミート(rFVIIa)などがあります。
どういう結果が得られたか?
この研究では、フィツシランの予防は、オンデマンドバイパス薬と比較して出血率の大幅な低下と関連していることがわかりました。年間出血率の中央値は、フィツシラン予防群で0.0、バイパス剤オンデマンド群で16.8でした。フィツシランの安全性プロファイルは以前の研究と一致しており、新たな安全上の懸念は確認されませんでした。すべての参加者が研究を完了しました。
1以下だと、フィツシラン郡のほうが良い結果だったよ、という意味
この研究のLimitationは?
阻害剤を含む血友病AまたはBの患者におけるフィツシラン予防の有効性と安全性のみを評価し、阻害剤を含まない患者では評価しなかったことです。さらに、この研究は非盲検であったため、結果に偏りが生じた可能性があります。最後に、この研究は9か月という比較的短い期間にわたって実施されたため、フィツシラン予防の長期的な安全性と有効性はまだ不明です。
この研究の今後は?
この論文は、この研究ではローカルアッセイ間で検査値のあたの実際のばらつきが観察されたため(施設によって検査する機械が違うので、同じ凝固状態でも検査データにばらつきができてしまう)、今後の研究でアンチトロンビン局所アッセイの測定許容限度を調査する必要があこと。
個々の反応に基づいてフィツシラン療法を個別化し最適化できる可能性についても調査中です。
感想
凝固系の研究をかじったこともあるので、つい興味をもった論文です。血友病の出血の問題は、深刻なものがあり、特に関節内で出血を起こすと、生活ADLが一気に低下してしまいます。RNAiを用いた治療法も徐々に臨床応用されるようになってきており、注目が必要です。これだけしっかりとしたデータがPhase3で出せたので、この研究担当者も安堵したことでしょう。こういう結果を自分の研究でもだせるようになりたいものです。