細胞外小胞(エクソソーム)の基本概念から、その生物学的役割、技術的側面、応用、そして研究の最新動向まで幅広くカバーしているWebsiteを構築していこうかと思っています。
プロローグ はじめに
序章: 細胞外小胞学の概要
エクソソーム、細胞外小胞について、簡潔に説明しています。
細胞外小胞の基本概念
細胞外小胞の分類
細胞外小胞の生物学的性質
細胞外小胞の生成と放出
エクソソーム/EVの生成(biogenesis)は、エンドソーム、内胞体(エンドプラズミックレチキュラム)、およびゴルジ体といった細胞内構造の間の相互作用に大いに依存しています。それぞれの構造体がどのように関与するかを具体的に説明します。
- 内胞体:内胞体は細胞内でタンパク質合成、折りたたみ、修飾が行われる場所です。ここで生成・修飾されたタンパク質は、コアトIIベシクル(コートタンパク質が包む小胞)を介してゴルジ体に運ばれます。
- ゴルジ体:ゴルジ体では、内胞体から送られてきたタンパク質がさらなる修飾を受けます。修飾が完了したタンパク質は、再びベシクルに包まれ、細胞内の特定の目的地へと送られます。一部のタンパク質はエンドソームへと送られ、エクソソームの生物生成に関与します。
- エンドソーム:エンドソームは、外部からの物質をエンドサイトーシスにより取り込むだけでなく、ゴルジ体から送られてきたタンパク質を受け取ります。エンドソームは成熟する過程で多胞性エンドソーム(MVB)に変化し、その内部にはイントラルーメナルベシクル(ILVs)が形成されます。これらのILVsは、ゴルジ体から送られてきた特定のタンパク質を含むことがあり、これらが最終的にエクソソームとなります。詳しい解説はここ
- エクソソームの放出:多胞性エンドソームが細胞膜と融合すると、エクソソームは細胞外に放出されます。これらのエクソソームは、細胞間通信に重要な役割を果たし、多種多様なタンパク質、リピッド、およびRNAを運搬します。
したがって、エクソソームの生物生成は、内胞体、ゴルジ体、そしてエンドソームといった細胞内構造体の間の緻密な相互作用によって支えられています。それでは、それぞれの項目について詳しくみていきましょう。
内胞体とゴルジ体における生成
エンドソームでの動き
多胞性小体と内胞体ストレス
細胞外小胞の内容物
細胞外小胞(エクソソーム)は、元の細胞から様々な生物学的物質を運ぶ能力があり、その中身は細胞の種類や状態、また細胞が存在する環境によって大きく変わります。
EVの内容物には、以下のようなものが含まれています:
タンパク質
細胞外小胞には多くの種類のタンパク質が含まれています。これらには細胞シグナル伝達、免疫応答、細胞増殖などの生物学的プロセスを調節するものがあります。
脂質
細胞外小胞の膜は主にリン脂質で構成されています。しかし、その他の脂質も含まれており、細胞間通信におけるシグナルとして働くことがあります。
RNA
細胞外小胞は、mRNA(メッセンジャーRNA)、miRNA(ミクロRNA)、lncRNA(長鎖非コード化RNA)など、さまざまな種類のRNAを運ぶ能力があります。これらのRNA分子は、細胞外小胞が標的細胞に取り込まれると、その細胞のタンパク質合成や遺伝子発現を変化させることがあります。
DNA
細胞外小胞には、細胞のゲノムDNAやミトコンドリアDNAの断片も含まれていることが報告されています。
細胞外小胞は、これらの内容物を運ぶことで、細胞間の通信を調節する重要な役割を果たします。さまざまな生理学的および病理学的状態で、EVの中身は変化し、その細胞からの特定のメッセージを他の細胞に伝えることができます。
細胞膜への輸送と放出
EVの放出、取り込みにおいて、脂質二重膜における脂質の重要性も報告されるようになってきました。
実際にEVが分泌された様子を捉えた動画もあります。
細胞外小胞の取り込みと標的細胞への作用
受容細胞への取り込みメカニズム
細胞外小胞による情報伝達
細胞外小胞による免疫調節
細胞外小胞の分離技術
分離技術の概要
超遠心分離法
免疫沈降法
サイズ排除クロマトグラフィー
Tangential flow filtration
自動EV抽出装置 Exodus
細胞外小胞の検出と特性解析
電子顕微鏡による検出
ナノ追跡分析
Flow Cytometry
細胞外小胞の病態生理学
免疫と細胞外小胞
腫瘍微小環境と転移
炎症と感染症
神経変性疾患
循環器疾患
細胞外小胞の臨床応用
診断マーカーとしての細胞外小胞
細胞外小胞を用いた治療戦略
脊髄損傷
脊髄損傷は、交通事故やスポーツ事故などによって引き起こされることが多く、神経細胞の損傷や炎症、出血などが原因で運動機能や感覚機能の喪失が生じます。現在の治療法では、完全な回復を実現することが難しいため、新たな治療法の開発が求められています。細胞外小胞は、再生医療の分野で新たな治療戦略として注目されており、脊髄損傷に対する治療法の開発にも期待されています。
脊髄損傷に対する細胞外小胞を用いた治療では、主に以下の効果が期待されています。
- 神経保護効果: 細胞外小胞には、抗酸化作用や抗炎症作用を持つ物質が含まれており、これらの物質が損傷した神経細胞を保護し、炎症やアポトーシス(細胞死)を抑制することが報告されています。
- 神経再生促進効果: 細胞外小胞は、神経細胞の成長や分化を促進する成長因子やサイトカインを含んでいます。これらの物質が、損傷した神経細胞の再生を促進し、脊髄損傷の回復に寄与することが期待されています。
- 再生細胞の移植効果の向上: 細胞外小胞は、再生細胞(幹細胞や神経前駆細胞など)の移植効果を向上させることが報告されています。細胞外小胞は、移植された細胞の生存率を向上させ、移植効果を高めることが期待されています。また、細胞外小胞は、移植細胞と受容細胞間の情報伝達を促進し、移植細胞が機能を発揮しやすい環境を整える役割も持っています。
- 血管新生促進: 細胞外小胞には、血管新生を促進する物質も含まれています。血管新生は、損傷部位への栄養供給や酸素供給を改善し、神経組織の回復をサポートすることが期待されています。
- これらの効果を活用するために、患者自身の幹細胞から抽出された細胞外小胞を用いた治療が開発されています。この治療法では、細胞外小胞を脊髄損傷部位に直接注入することで、神経保護、神経再生促進、血管新生促進などの効果が期待されます。
ヒト骨髄間葉系幹細胞から抽出されたエクソソームの脊髄損傷に対する治療効果を検証